この項では海上自衛隊の艦艇が装備するVLSについてまとめています。
VLSについて
近年の護衛艦は、対空・対潜ミサイルの発射装置としてVLSを用いています。VLSはVertical Launch Systemの略で「垂直発射装置」等と訳されます。海上自衛隊のホームページ等では「VLS装置」と記載されています。
海上自衛隊は「Mk.41」と「Mk.48」という二種類のVLSを運用しています。
Mk.41
概要
弾薬庫と発射機を兼ねた「ミサイル・セル」 1つを最小単位として、セル8つで1モジュールを構成します。
モジュールには大きさによって3種類あり、米海軍と海上自衛隊ではその中で最大となるStrike-Lengthモジュールを使用しています。
米軍ではStrike-Lengthモジュールを8つ備えた発射機(64セル)をMk.158、4つ備えた発射機(32セル)をMk.159として制式化しています。
キャニスターとミサイル
個々のミサイル・セルには、ミサイルごとに専用のキャニスターを介してミサイルが装填されます。キャニスターの制式番号と対応するミサイルは以下の通りです。
- Mk.13・・・スタンダードSM-2MR
- Mk.14・・・トマホーク
- Mk.15・・・垂直発射アスロック(VLA)
- Mk.21・・・スタンダードSM-2ER/SM-3
- Mk.22・・・シー・スパロー/発展型シー・スパロー(ESSM)
- Mk.25・・・シー・スパロー/ESSM x 4発
Mk.48
概要
搭載ミサイルを対空ミサイルに特化し、小型軽量化したVLS。
海上自衛隊ではむらさめ型がMk.48 Mod.0を装備し、順次Mod.4に改装されています。Mod.4ではESSMの搭載が可能となります。
キャニスターについては、シー・スパロー/ESSM一発を搭載可能なMk.20と、ESSM二発を搭載可能なMk.56があります。
むらさめ型のMk48. Mod.4はキャニスターにMk.20を用いるため、Mod.0からMod.4への改装でESSMが運用可能となっても、装弾数は変化しません。
海上自衛隊のVLS
ミサイル護衛艦(DDG)
まや型(隻数:2/就役:2020~)
- Mk.41・・・96セル(前64セル、後32セル)
あたご型(隻数:2/就役:2007~)
- Mk.41・・・96セル(前64セル、後32セル)
こんごう型(隻数:4/就役:1993~)
- Mk.41・・・90セル(前29セル、後61セル)
補足
- ストライク・ダウン・モジュール
海自のこんごう型や米海軍のタイコンデロガ級、初期のアーレイ・バーク級では前後各3セル分のスペースを使って再装填用のクレーン(ストライク・ダウン・モジュール)を装備していました。
しかし、のちに洋上での再装填は現実的ではないと判断されたため、あたご型やアーレイ・バーク級の後期型ではストライク・ダウン・モジュールを装備していません。その分、VLSのセル数が増加しています。
- SM-3ミサイル
BMD対応艦である4隻のこんごう型は、各8発のSM-3ブロック1Aを搭載します。
ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)
ひゅうが型(隻数:2/就役:2009~)
- Mk.41・・・16セル
16セルのうち12セルがVLA、4セルがESSM(16発)。
補足
- いずも型の対空兵装
いずも型護衛艦はVLSを装備せず、個艦防衛用にSeaRAMとCIWS各2基を備えています。
汎用護衛艦(DD)
あさひ型(隻数:2/就役:2018~)
- Mk.41・・・32セル
ESSM及び07式SUMを搭載。
あきづき型(隻数:4/就役:2012~)
- Mk.41・・・32セル
搭載するミサイルはESSM及びVLA(1番艦「あきづき」のみ)、またはESSM及び07式VLA(2番艦「てるづき」以降)
たかなみ型(隻数:5/就役:2003~)
- Mk.41・・・32セル
たかなみ型では32セル中16セルをVLAに、残り16セルをシー・スパローにあてており、むらさめ型同様、改装によってESSMの運用能力を付与されるものと思われます。
むらさめ型(隻数:9/就役:1996~)
- Mk.41・・・16セル
- (改装前)Mk.48 Mod.0・・・16セル
- (改装後)Mk.48 Mod.4・・・16セル
むらさめ型ではMk.48にシー・スパローないしESSMを、Mk.41にVLAを搭載しています。
短SAMシステム改修
むらさめ型は2004年から2012年にかけて短SAMシステムの改修を行い、全9隻がESSMに対応しました。
年度毎の実施状況は以下の通りです。(各年度の「防衛予算の概要」より作成。隻数の合計はむらさめ型の隻数とは一致しません。)
年度 | 項目 | 数量(隻) | 金額(億円) |
2012 | むらさめ型護衛艦等の短SAMシステムの機能向上 | 1 | 0.6 |
2010 | むらさめ型護衛艦等の短SAMシステム換装 | 1 | 1 |
2009 | 〃 | 1 | 7 |
2008 | 〃 | 1 | 1 |
2007 | 〃 | 1 | 5 |
2006 | 〃 | 2 | 9 |
2005 | 〃 | 3 | 13 |
2004 | 〃 | 2 | 9 |
防衛省は短SAMシステム改修の理由として以下の2点を挙げています。
- 高性能化する対艦ミサイルに対する阻止効果の向上。
- シー・スパローミサイル(RIM-7M)の価格高騰。
多機能護衛艦(FFM)
もがみ型(【計画】隻数:22?/就役:2023~)
- Mk.41・・・16セル?(後日装備)
1番艦から少なくとも8番艦については建造時点ではVLSを搭載せず、後日装備することとなっています。そのため当面は62口径5インチ(127mm)砲1門、及びSeaRAM近接防空ミサイル1基がもがみ型の対空兵装となります。
令和2年度防衛予算の概算要求にて、もがみ型(3,900トン型FFM)12隻分として24基の調達予算が要求されていました。このことから、もがみ型1隻が搭載するMk.41 VLSは2基16セルと想像されます。
VLSには、対潜ミサイルとして07式VLA、対空ミサイルとしてESSMまたは開発中の新艦対空ミサイルと搭載するものと思われます。もがみ型は今後、あぶくま型護衛艦を置き換えてゆくことになります。あぶくま型はアスロックを8発搭載していましたから、もがみ型も07式VLAを8セルに搭載し、残りの8セルにSAMを搭載する形が基本となるでしょう。
試験艦(ASE)
あすか型(隻数:1/就役:1995~)
- Mk.41・・・8セル
試験艦「あすか」は、新アスロック(後の07式VLA)を試験する目的でMk.41 VLS 1基8セルを搭載しています。新アスロックの開発は1999年に開始し、2007年に制式化が完了しました。新アスロックは、従来のVLAより射程を伸ばすことで、遠距離で発見した潜水艦への対応力を増しています。
新アスロックの開発により、海上自衛隊はVLSから発射するミサイルの国産化に成功しました。VLSと各種装置の連接技術や水上艦からの垂直発射技術の確立などは、新艦対空ミサイル(陸上自衛隊の03式中SAMを艦載ミサイルとしてファミリー化するもの)をはじめとした今後の国産ミサイルへと生かされていくことでしょう。
参考
むらさめ型関連
- 防衛省・自衛隊 予算等の概要(https://www.mod.go.jp/j/yosan/yosan.html)
- 平成25年行政事業レビューシート むらさめ型護衛艦等の短SAMシステムの機能向上(https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/kouritsuka/rev_suishin/h25_res/r-sheet/0045.pdf)
もがみ型関連
- プロジェクト管理対象装備品等の新規選定等と取得プログラムの分析及び評価の概要について(令和2年9月30日)(https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/project/gaiyo_r020930.pdf)
- 世界の艦船 艦船ニュース「令和2年度防衛予算の政府案決定」【リンク】
あすか型関連
更新履歴
- 2022/02/06 タイトルを変更(旧「海自運用のVLS」)
- 2021/03/21 あすか型の項目を追加。他。
- 2021/03/20 もがみ型の項目に追記。他。
- 2019/09/22 むらさめ型 短SAMシステム機能向上の記載を追加。参考を追加。
- 2018/09/02 初版作成(旧ページより移行)
コメント
もがみ型に搭載される新艦対空ミサイルがESSMのように1セルに4発搭載することが出来ず、1セル1発となってしまい、対空ミサイルが計8発になることが巷で危惧されてますがどうするのでしょうか。